夏によわい
わたしがまだ若くてスリムな体型だった頃、大阪の小さなデザイン事務所に勤めていた。その事務所の社長がふくよかな女性だったのだけれど、とにかく暑がりな方で6月に入ると「暑い、暑いわ〜」とフーフー汗をかきながらエアコンの温度を18度に設定するのが恒例で、内心「なんでこんなに下げるのよ。冷蔵庫やん」と不満だらけだった。
それから時は流れ、たっぷりと脂肪を身にまとった中年女性となったわたしは「災害時に備えて脂肪を蓄えてます」なんてしょうもないことを言いながら、「暑い、暑い」と汗だくになっている。全身から吹き出すような汗をミニタオルで拭きながら社長のことを思い出す。社長、あの頃は社長の気持ちがわからなくてごめんなさい。今ならわかる。わたし、冷蔵庫に入りたい。
話はグイッと変わるけれど、全身から吹き出すで思い出した。血飛沫のこと。根本起男さんの「さんくすないと」は喉元から血飛沫が出て人が死にゆくシーンの描写が印象的だった。パニックに陥った集団のそれぞれの事情なんかもあってサクサクと読めちゃうのだけれど、展開が早くて、最後も「そうかー」という感じで心の中をサラサラっと流れちゃう感じだった。
さんくすないとがあまりにもサラサラとしちゃったので、心をえぐられるようなイヤミスが読みたいと思って、真梨幸子さんの「殺人鬼フジコの衝動」を読んだら冒頭から心をえぐられっぱなしで、最後のあたりで「そうだったの?」と驚いて、巻末で「そういうこと!」とゾワゾワとなった。イヤミスは読んでいるときも読み終わったあとも心がザラザラになるけれど、また読みたくなる。麻薬みたいなものなのかな。
心がザラザラになるといえば、齊藤彩さんの「母という呪縛 娘という牢獄」これは実際にあった残酷で悲しい事件のノンフィクションで、読み終わったあと落涙。この本は、わたし自身が絶対にこのような親になってはいけないという戒めとして読んだのだけれど、とにかく心が痛んだ。悲しすぎるな。
本の話ばかりになった。そうだ、夏によわいってことを書きたかったんだった。今でも夏バテでぐったりしているのに、夏本番になったらわたしどうなっちゃうんだろう。前に「寒い時は服を着たら良いけど、暑いときは脱ぐことできなくなるから(自分の)皮を剥ぐしかない」と夫に冗談を言っていたら、それを聞いていた子に「皮を剥ぐなんて怖いこといわないで」と言われた。心配しなくてもお母さんは自分の皮を剥ぐことはしません。お腹の脂肪は千切れるものなら千切ってしまいたいけれど。
お肉はミンチにして処分すればバレないって殺人鬼フジコが言ってたな。